ビルや工場の電気設備に欠かせない「分電盤」。その見積をつくるには、案件ごとに形式がばらばらな図面を読み解き、法規や製品の仕様に照らして必要な回路や機器を拾い出す、専門性の高い作業が必要です。分電盤メーカーの日東工業は2026年10月20日、日本IBMの支援を受けて、設備図面から見積に必要な情報を取り出す生成AIアプリを開発したと発表しました。
ここがポイント
- 建物の図面をアップロードすると、マルチモーダル生成AIが回路情報・機器情報・特記事項などを抽出します。
- AIが図面の読み取りと整理、営業担当者が確認・修正という役割分担。人の目で最終チェックする前提の設計です。
- AIの抽出結果と担当者の修正内容を構造化データとしてためていき、組織全体で使える知識の基盤にします。
- 全国23営業拠点・約50名の営業担当者が使える環境を整え、2026年10月から段階的に実業務で運用しています。
- 日本IBMの「統合AI基盤」のリファレンス・アーキテクチャーを採用し、特定のAIモデルやシステム環境に依存しない構成にしています。
何が変わるのか
見積の仕事は、経験を積んだ特定の担当者に頼りがちでした。人手不足が進むなかで、すばやく回答することと、見積の品質を保つことの両立が課題になっていました。
今回のアプリでは、図面を読む作業をAIが下ごしらえし、担当者は業務知識を生かして確認と修正に集中できます。さらに、その修正内容がデータとして蓄積されることで、ベテランの「目のつけどころ」が組織の資産として残っていくしくみになっています。両社はアプリ開発の前に、約1年半をかけて見積ノウハウの整理、業務知識の構造化、人とAIの役割分担の定義、運用体制づくりを進めてきました。
DXマスターの視点
生成AIの活用というと、文章作成や要約が注目されがちですが、この事例は「図面」という専門的な資料を読み取るところに使っている点がポイントです。製造業や建設業には、図面や仕様書を読む仕事がたくさんあり、同じ考え方を応用できる場面は多いはずです。
また、いきなりAIに任せるのではなく、ノウハウの整理と役割分担の定義に時間をかけたことも見逃せません。日東工業は今後、対応できる図面の種類を広げ、設計・生産・保守など周辺業務への展開も検討するとしています。両社は、AIガバナンスやAIセキュリティーを含む全社レベルのAI活用基盤も検討中です。DXマスター(DX MASTER)は、「人とAIの役割分担」を先に決めることこそが、現場で生成AIを根づかせる近道だと考えます。