「育休の手続きって、どの規定に書いてあるんだろう?」――会社の人事規定は、就業規則、人事制度、福利厚生など何種類もの文書に分かれていて、必要なところを探すのはひと苦労です。下着メーカーのワコールは、この「探す手間」をAIエージェントで減らそうとしています。AI人材育成・導入支援のBeyont(ビヨント)は2026年11月6日、ワコールの「人事規定検索支援AIエージェント」の構築を約2か月で支援したと発表しました。DXマスター(DX MASTER)が、社内の問い合わせ対応のAI事例として紹介します。
ここがポイント
- 人事担当者には月数百件の問い合わせが集まっていました。上司に聞くなど、人事を通さないやりとりも社内で起きていました。
- MicrosoftのCopilot Studioを使い、2026年7〜9月の約2か月でMVP(実用最小限の試作版)を構築。ワコールのIT戦略本部と人事部門が一緒に作りました。
- 評価用の質問33問中27問が、人事部門の目視チェックで合格。関連する規定を示しながら回答するので、人によって答えがばらつくのを抑えられます。
- 安心して使える「ガードレール」:個人の評価など個人情報に関わる質問には答えず問い合わせ先を案内。あいまいな質問には聞き返し、答えられない質問は推測で答えずに人事窓口へつなぎます。
- 今後は試験導入で活用状況を確かめ、全社展開へ。ほかの部門への横展開も、費用対効果を見ながら検討するとしています。
何が変わるのか
ワコールでは、内勤の社員全員がMicrosoftの生成AI「Copilot」のチャットを使える環境がすでに整っています。次の段階として、「みんなが使える」から「部門の仕事にAIを組みこむ」へ進むためのテーマに選ばれたのが、人事規定の問い合わせ対応でした。
作る途中では、社内だけで通じる言葉の意味をAIに教えこみ、人事部門が答えを確かめて直す改善を何度もくり返しました。また、M365 Copilotのライセンスを持たない社員も、SharePointの閲覧権限の範囲で規定を参照できる構成も検証しています。発表では、権限の付け方やメンテナンスといった全社展開に向けた課題がはっきりしたことや、AIが読み取りやすい形に社内文書を整える大切さを社内で共有したことも成果として挙げています。
DXマスターの視点
この事例のよいところは、「AIにすべてを任せない」設計を最初から組みこんでいる点です。33問中27問の合格は、言いかえれば6問はまだ人の確認が必要だったということ。だからこそ、答えられないときは人事窓口へつなぎ、個人情報には答えないというルールを決めています。AIがもっともらしい誤りを答えるハルシネーションへの備えとして、多くの会社が参考にできる考え方です。
もう1つの注目点は、約2か月という短い期間で「小さく作って試す」進め方です。人事規定のように文書がそろっている業務は、社内の知識を生かすナレッジマネジメントとAIの相性がとてもよい分野。新入社員や異動したばかりの社員が、気軽に質問できる相手としても役立ちそうです。AIをどう業務に生かすか――まずは「問い合わせの多い社内の困りごと」から始めるのが、AI活用の近道と言えます。